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2022年10月21日 (金)

JD障害者権利条約プロジェクト学習会レポート

★JD障害者権利条約プロジェクト学習会レポート

                                                                  理事:伊藤利明、伊藤正、吉野州正

9月27日(火)18時~20時、「障害者権利条約の国別審査」をテーマに、JD学習会(zoomによるオンライン方式)が開催されました。

 

◆司会者あいさつ

 司会の増田一世常務理事から、学習会のポイントとして「日本の国別審査までのプロセス」と「現地でのロビー活動」の共有が挙げられました。国別審査そのものだけではなく、国別審査に至るプロセスの大切さを重視したいとのこと。

 気になる「総括所見」は、第二部で触れるが次回の学習会で詳しく学びたい、とのことでした。

 

◆第1部 障害者権利条約の対日審査をめぐって

○対日審査までのJDFの取り組み:佐藤久夫(JD理事/日本社会事業大学名誉教授)

・障害者権利条約に至るまでの、障害者権利宣言など国連の関連する条約制定の歴史を把握することの大切さを強調したい。

・その上で、条約批准後に受けなければならない「国別審査」について、権利条約から見た日本の障害者施策の評価になることを踏まえ、JDFは、障害者権利条約の推進を目的に掲げている団体としてパラレルレポートの作成に組織的に取り組んだ。

・今回出された「総括所見」を読むと、現地のロビー活動だけではなく、事前提出したパラレルレポートを国連障害者権利委員(以下、委員)が読み込んでいることがわかり、レポート作成の効果を感じている。

・今後、国別審査は4年ごとにあり、次回は2028年2月(時期がずれるのはコロナの影響)に実施される。スケジュールに合わせて、2026年3月までに国連に次のパラレルレポートを提出したい。

・「総括所見」の日本政府公定訳が出る時期はわからない。日本政府はまだ読み込んでいないようで、しばらく時間がかかると予想している。

 

〇ロビー活動,そして対日審査の概要:赤松英知(JD政策委員/きょうされん常務理事)

JDFは、全部で3回パラレルレポートを提出。1回目のパラレルレポートは120ページと分量が多いが、現状と課題がしっかり書き込まれていて、提出後も機会あるごとに立ち返って参考にしている。ぜひみなさんも読んでほしい。

・今回ジュネーブに日本から行った障害当事者・関係者は全部で100人ほど。政府からは28人。教育に特化した団体もあり目的はさまざま。

・現地のロビー活動で印象に残ったのは、「プライベートブリーフィング」という当事者団体から委員への非公開の説明の機会があったこと。非公開の理由は、説明の中で政府批判が出ると国によっては当事者に不利益をもたらすことがあるとのこと。マスコミも入れない。同行した船後議員も国会議員ということで入れなかった。

・「建設的対話」から印象に残ったこといくつか。

「8条:啓発」 JDFからは「条約の理念の不足」「やまゆり園事件の再発防止策で国の指導が弱い」などを指摘。政府の姿勢には違和感がある。優生思想根絶のため、地域フォーラム開催など広報活動を行っているというが、本当に条約を理解しているか疑問。国主導で取り組んでいるとは思えない。

11条:災害」 JDFからは、「災害時の合理的配慮について法的根拠がない」ことを指摘。政府は「障害者差別解消法の制定など必要なことはしている」と報告していた。

17条:個人の尊重」 優生裁判が課題。政府は優生保護法についても取り組んでいると説明しているが、実際は大阪高裁、東京高裁で上告している。このことから見ても、国は我々に「ファイテイングポーズ」をとり続けている。ただ、総括所見を見ると、こちらの課題の指摘が弱かった感じがあり、ロビー活動が不十分だったと反省している。

19条:地域生活移行」 政府回答は「(施設の)内外で花見はできる」というものだった。総括所見では施設入所の縮小への努力を厳しく求められた。

27条:福祉労働」 政府は「個人の経済活動の支援はできない」「2022年度から重度障害者の通勤支援を可能とした」と回答。しかし、この変更の対象となる障害者はわずかであり、総括所見では障害者の社会参加支援の不十分さが指摘された。

 

〇権利委員へのロビー活動を通して:南由美子(全難聴国際部副部長)

・全難聴の代表として参加。これまでもJDFのパラレルレポート作成や、障害のある女性としてDPIの女性ネットにも参加してきた。

17人の委員全員に面談を申し入れ、3人からOKが出て817日に面談し、私は日本における中等度難聴者の社会的不利について説明した。具体的には、現在の日本の障害者福祉制度では、聴力障害の認定は医学モデルが残っている。中等度難聴者は障害者と認定されず合理的配慮が受けられないことを説明し、認定基準について条約の理念である人権モデルへの見直しの必要性を訴えた。

・現地で印象に残ったことは、全難聴と全日本ろうあ連盟が、ブリーフィングの準備として「障害認定基準が人権モデルではない」という回答案を共同で取りまとめたこと。同じ聴覚障害者として意見交換できたことは貴重な経験となった。ロビー活動の大切さを学んだ。

・また、障害認定基準の人権モデル化について、当事者からの発信の重要性も学んだ。今までの自分の取り組みが不十分だったと反省している。今後は具体的な行動に取り組んでいきたい。

 

〇ロビー活動/対日審査を傍聴して:竹内智彦,柴田静(ゼンコロ),松本尭久(きょうされん)

<松本>

 写真をベースに現地の風景、会場、メンバーの活動の様子を説明。

 

<柴田>

・「建設的対話」について。政府回答は国会答弁のようで淡々と述べるだけだった。それに対して委員の言葉からは熱意が感じられた。私たちのロビー活動の効果を感じた。

・総括所見について。私は視覚障害者だが、所見にあった「マラケシュ条約:視覚障害者の読書の権利を規定」や情報アクセシビリティの主張に感銘を受けた。自分の中で若い時の取り組みに結び付いた。

・「教育」「雇用」について。私が若い時はインクルーシブや統合教育が言われていたが、いつのまにか「分離」になっていた。これについて「なくす方向」という勧告があり、ありがたかった。今後の取り組みが大切になると感じている。

・新規採用する若い障害者と話をすると「普通の人はこわい」という意見が多い。新人だけではなく、卒業後10年たっても同じことを話す人がいる。過去につらい経験をしていると想定される。施策以外の取り組みの必要性を感じている。

 

<竹内>

・ブリーフィングについて。(当事者からの)情報提供の大切さを感じた。最初は、委員の政府に対するコメントは弱いという印象だった。ブリーフィングの中で、(当事者の)意見を聞く中で姿勢が変わっていった。国連の委員は(当事者の)意見を聞く姿勢があることがわかった。

・国別審査について。関係者の努力の継続の重要性を感じている。審査の最後に委員が「政府は当事者と継続してコミュニケーションをとってほしい」と述べたが、法制度へ継続的にコミットしていくことの重要性を感じた。

・今後も権利条約には継続して関わっていきたい。

 

◆第2部 総括所見をめぐって 私はこう感じた! 考えた!

〇私はこう考える:佐藤久夫、赤松英知

<佐藤>

・総括所見を見た感想は「非常に詳しい」。1条から33条まで、すべてにコメントされている。国別審査としてこれほど多いのは初めて。これまで100か国以上の審査が終わっているが、最初は15条くらいの記載だった。最近の韓国やオーストラリアで30条くらい。英文18ページという分量もこれまでで最大。従来は1013ページくらい。

・また、パラレルレポートをよく読んでいる、と思った。「障害者権利条約の日本語訳のおかしさ」という指摘があったが、これは最初のパラレルレポートで書いたこと。建設的対話の中でも議論はなかったと思う。

・政府の取り組みでは、17項目が評価されている。他国と比較して数が多い。評価された内容を見ると一般的な項目も多く、どういう意味があるのか研究したい。

・評価基準を他国比較で考察すると、特に甘くも厳しくもないと感じた。これまでも先進国と思われるニュージーランドやオランダに対しても厳しい評価があったり、発展途上国に対して評価するところもあったりした。

・欠格条項の存在について指摘されている。他国の所見にはなく初めての指摘と思う。パラレルレポートの成果と考える。

 

<赤松>

・「8条:啓発」 国家戦略の策定が勧告されている。

・「11条:災害」 合理的配慮について法律上に規定することが勧告されている。

・「14条:自由」 強制入院の廃止が勧告されている。

・「15条:取扱」 行為の強制につながるとして法律の廃止が勧告されている。

・「17条:個人の保護」 優生裁判の救済の徹底が勧告されている。

・「19条:自立生活」 脱施設、長期入院改善、地域の支援体制作り、が強く要請された。

・「27条:労働」 福祉的就労の一般的就労への移行加速が勧告された。きょうされんとしては、福祉的就労の現時点での廃止は現実として働く場の喪失につながる現実があるとして今後の議論が必要と考えている。

 

〇初の対日審査から未来に向けて:藤井克徳(JD代表/きょうされん専務理事)

JDFと権利条約への取り組みは20年にわたる。今回の総括所見で「一周した」という感慨がある。総括所見では圧倒的な文字数で懸念事項が示されている。いくつか指摘したい。

・今後の日本の障害者施策は、これまでの延長線上であってはならない、脱却することが求められている。総括所見は未来を照らす羅針盤になる。

・事業体系としては、「骨格提言」に基づいた見直しの必要性がある。さらに、国の組織についても考えたい。こども家庭庁のように障害者支援を専門とする独立した組織が必要ではないか。このあたりは、私たちもふくらましていく取り組みが必要と考えている。

・過去を振り返る「物差し」としての役割について。過去の過ちは変えられないが位置づけは変えられる。精神障害者医療、施設中心主義、手話言語の扱いなどについて、理由を考え見方を発展させたい。

・総括所見についていくつか述べたい。

 「7番目:一般原則」 a)からe)まですべて深いが特にa)が深い。「父権主義的アプローチ」が否定された。はっとする指摘。これまで当人によかれと思ってやっていることが人権侵害になっていた。「あてがいぶち」であり、これは誤り。権利の主体が当事者になっていない。これでよしとする思い込みがあった。本人主体の人権モデルと調和しない。

 「72番目」 最後のフォローアップ。政府に対して総括所見の「自治体、専門職、メディアへの伝達」の実施を求める勧告があった。政府は実施するだろうか。

74番目」 政府に対して「NGO、障害者、障害者団体」に対して、手話や政府のHP掲載を含め、勧告内容を普及させるよう要請している。

・これらを含めて、政府は勧告内容を受け止め、経済力ある国家として実施に取り組んでほしい。

・私たちとしては、総括所見を政府への要請だけではなく、運動する私たちへ示されているものとしてもとらえたい。運動の指針として、行動戦略を練ることが必要になる。

・今回の総括所見に加えて、骨格提言も併せて大切にしたい。また、権利条約本体をあらためて学び直したい。条約は、発展途上国から先進国まですべての国家に照準があっている。条約にある条約の意義を増幅させる仕掛け(締約国会議、懸念事項の提起・勧告)を使い切りましょう。私たちも増幅させる仕掛けを考えたい。

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