報告会「日本の審査と総括所見(勧告)を受けた今後の条約実施に向けて」
今年8月22日、23日にスイスの国連ジュネーブ本部で障害者権利委員会による「障害者権利条約 第1回建設的対話」が行われました。そして、9月20日その報告会「日本の審査と総括所見(勧告)を受けた今後の条約実施に向けて」がオンラインで開催されました。会場と1,000人を超える参加がありました。
司会は、南由美子さん(全難聴)が務めました。
まず、阿部一彦JDF(日本障害フォーラム)代表から「今後どのように活用して我が国の障害者施策の向上に向けて活動を展開していくか、みなさまと考えていきたい」との開会のあいさつがありました。
続いて、国会議員11人の挨拶及び紹介がありました。
まず、建設的対話の概要と講演会の講師紹介が長瀬修氏(JDF障害者権利条約推進委員会副委員長・立命館大学生存学研究所)からありました。
3年ぶりの対面での審査会が開催された。日本以外で印象に残っているのは、中国の審査では、障害者団体から中央政府は障害者権利条約を完全実施しているとパラレルレポートが出された。実は背筋が寒くなる建設的対話があった。ニュージーランドは先住民を大事にしていた。
ヨナス・ラスカル氏は、2015年から権利委員会委員、2019年から副委員長、そしてこの12月で2期8年の任期を終える。
ヨナス・ラスカル氏(障害者権利委員会副委員長)から、「障害者権利委員会の取り組みと日本の建設的対話」と題して通訳を介して講演がありました。
自己紹介で、リトアニアでカウナス(Kaunas)の大学で教鞭を執られているとのこと。このカウナスは、杉原千畝氏がユダヤ人に命のビザを発給したところです。
主な講演の内容は、
1 建設的対話
障害者団体がジュネーブに大勢参加し、積極的で信頼できる参加だった。
障害者権利条約は、1969年のウィーン条約第26条によって拘束されているが制裁はない。
※第26条
(「合意は守られなければならない」)効力を有するすべての条約は、当事国を拘束し、当事国は、これらの条約を誠実に履行しなければならない。
2 社会モデルと人権モデル
「重度」のことばがよく使われているが、障害者権利条約にはその用語はない。多くの支援を、「集中した支援を必要とする人」という言い方をする。平等であるという考え方であり、人間の多様性を尊重することになる。
3 権利条約第19条の地域移行
「脱施設化」を図っていく。強制入院、措置入院など強く撤廃すべき。
4 権利条約第24条のインクルーシブ教育
社会の中で生活していく道のりを否定する。大人になったときに施設で暮らすことになる。一般的な教育を受けることを拒否することである。そこでは、合理的配慮がなされていないことになる。教員を支援し、研修が必要。手話、点字など教育の中で揃えていかなければならない。
5 まとめ
全ての段階において障害者が参加できるようにしていく。
意思決定するときに多様な障害者を参加させる。
子どもも参加させる。自らの権利を訴えられるようにしていく。
障害者自らが知識をより高める。
すべての人に人権があることを意識する。
でした。
休憩後に参加者からの報告とラスカル氏への質疑応答がありました。
2つのみ報告します。
1 全体報告
田中伸明氏(日本視覚障害者団体連合)
・2014年 日本は権利条約を批准
・2016年6月 第1回日本政府報告提出
・2022年5月31日 事前質問事項に対する回答を提出
・JDFとして3つのパラレルレポートを提出
・100人を超える訪問団がブリーフィング・ロビーイングで日本の障害者をとりまく現状について正確な情報を伝えた。また、受け入れられない政府回答には、正確な情報に基づいて指摘し、権利委員会に提供した。
・「熱意をもってよりよい社会をつくる」ことで障害者団体は団結した。
・2022年8月22日、23日の日本の審査(6時間)
権利委員会からの質問が、日本の実情を把握した具体的で的確なものだった。
これは、パラレルレポートが委員に正確に伝わった成果である。
日本政府の回答は一般的な制度の説明に留まった。まだ、不十分であることが証明された。
・2028年2月20日 次回の政府報告
1年前までに問題のリストを提出する必要がある。
2 手話言語(第1~4条)
中西久美子氏(全日本ろうあ連盟理事)
・ニュージーランドや韓国は、手話言語法が制定されていることから、政府が手話通訳を準備しいていたと思われる。しかし、日本は手話言語通訳を用意していなかった。大変遺憾である。
・ロビー活動では、手話言語による情報アクセスができない。適切 な措置が取られない限り、「わたしたちの自由な意見形成と社会参加が困難になる」と主張した。国が全ての情報を手話言語で提供するようにする。意思疎通支援者(手話通訳者等)の養成が不十分であり、専門機関に手話通訳者が設置されていないことで、生活面や活動面などの社会参加や選択権が制限されていると訴えた。
・勧告では、日本手話を国レベルの公用語として、法律で認め、生活のあらゆる場面で手話へアクセスとその使用を促進し、有能な手話通訳者の訓練と利用可能性を確保することとされた。
・連盟としては、手話言語の保障による国内法の全ての法律および規程等の「言語」にも手話言語を含めたうえで、手話言語を獲得し、習得し、使用するための手話言語法を制定することを求める。
3 障害女性(第6条)、優生保護(第17条)
藤原久美子氏(DPI日本会議)
4 法的能力(第12条)、地域移行(第19条)
崔栄繁氏(DPI日本会議)
5 入院(第14条)、
桐原尚之氏(全国「精神病)者集団」
6 教育(第24条)、国内監視機関(第33条)
尾上浩二氏(DPI日本会議)
6人の発表の後、質疑応答があったが、その中の1つを報告する。
質問
インクルーシブ教育の重要性はご指摘いただいたとおりです。一方で聴覚障害児者の教育ではろう者集団で手話言語が使用できる環境が求められ聾学校の存在は無視できない。日本では聾学校の重要性を指摘する声が多い。インクルーシブ教育の下で聾学校の存在についてどのように考えればよいか。また、インクルーシブ教育の中でのろうコミュニティの確保をどのように考えるか。
回答(ラスカル氏)
この問題の答えは、ろう者の組織から出されるものだと思う。障害者の完全な社会参加に賛成しているものと考えている。権利条約としては、いかなる特殊教育についても認めてはいない。権利条約は、手話言語の認知、ろう文化の認知、手話について十分に尊重している。権利委員は、世界ろう連盟ともミーティングをしている。合意している点は、いかにインクルーシブ教育を進めていくかということ。
個人的な経験を話させていただく。私にはろうの生徒がいます。ソーシャルワークで学位を取得している。今は博士課程に進んでいる。インクルーシブ教育、特殊教育、聾学校について話をした。「インクルーシブ教育を受けて良かった」と言っている。「インクルーシブ教育がなければ今の立場に立てなかった。そして自分の国の全国リーダーにもなれなかった。」とも言っている。
閉会のあいさつとして藤井克徳氏(JDF副代表)からまとめがありました。
1 「ジュネーブの桜」と私は命名した。日本政府は、「桜は地域で見るのもいいけれど、施設の中で見るのも変わりない」。これは、日本政府のある意味での到達点である。施設延長政策を正当化するためにこの比喩を言ったものであり、日本の本質を表しているものだ。桜はどこで見るか、そして、誰と見るかが大切である。
2 最終日に日本審査担当のキム・ミヨン委員が権利委員会を代表して最後のコメントを話しているとき涙ぐんでいた。彼女の思いが伝わってきた。これは、「日本のパラレルレポートはすばらしい」と言っていたのだと思う。「日本政府の皆さんは恥ずかしくないですか?」と私には聞こえた。
「私たちのことを私たち抜きで決めないで」。これに加えて「権利条約に恥をかかせるのは止めよう。」と言って閉会のことばとします。
本日の報告会にZoomにて参加しました。
特に勧告の中で、精神科病院での無期限の入院の禁止やインクルーシブ教育の確立については「強く(Urge)要請」されたところです。また、中西理事の報告にあったように、「日本手話を国レベルの公用語として、法律で認め」と勧告が出されました。勧告は「ウィーン条約第26条によって拘束」されることから、日本政府はこのことを重く受け止めてほしい。そして、私たちは、関係団体とともに、勧告を実現させるために、より一層の運動をしていかなければならないと考えさせられた報告会でした。
2022年9月20日
全通研 会長 渡辺正夫
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